東海地域ハブ研究会
平成10年度報告書
財団法人中部産業活性化センター
東海地域ハブ研究会
はじめに
日本のインターネットは、その初期段階において、文部省学術情報センターの
SINET、産学協同実験プロジェクトのWIDEを中心に発展してきた。そしてWIDEとSINETのインターネット相互接続点NSPIXPは、商用ISPの中心的な相互接続点NSPIXP2へと発展し、ごく最近までは、国内のほとんどの通信がここを通過していた。現在ではISP同士の個別の相互接続が進みつつあるが、それでもほとんどの相互接続は東京一極集中となっている。
一方、東海地域のインターネットは、東海インターネットワーク協議会が中心となって、他地域と比べ先進的な普及をとげてきている。
200あまりの地域ISPが活躍し、ほとんどすべての一次系ISPもアクセスポイントを展開してきている。しかしこれらの数多くのISPを東海地域において相互接続する試みは、ほとんど皆無に近かった。
1997
年の夏、本研究会の設立が有志によって話し合われていた頃、東海地域において、すでに商用ISPは乱立状態にあり、インターネットの接続点には事欠かなかったが、ISPを跨いだ通信状態にはかなり問題があった。特に商用ISPから地域の大学にアクセスした場合が最悪で、ほとんど使い物にならない代物であった。これは自宅(あるいは会社)から数kmと離れていない大学であっても、その通信は東京の相互接続点を迂回する必要があったからである。
地域IXの必要性と意義
ここでは地域
IXに関して、研究会活動を通して明確化できた事項について述べる。
1.1 ISPの階層構造
日本のプロバイダーはこれまで一般に東京、あるいは
NSPIXPを中心に放射状に階層構造をなしながら全国に広がってきた。それにはいくつかの理由が考えられる。
NSPIXPしかなった。
大手商用ISPは東京にThe Internet(海外)との国際専用線を引き、東京を中心としてネットワークを拡張して行った。
海外とNSPIXPに接続した一次ISPにネットワークと技術を依存した二次ISPという形で、地域ISPが展開してきた。
二次ISPの多くは技術的な障壁から、親以外の一次ISPと接続するのが困難である。
エンドユーザもまた複数のISPと接続するのが、技術的、あるいはコスト的に困難である。
ISP同士の相互接続の技術がわかる人材が地方にいなかった。
大手一次ISPも中央での相互接続で手一杯で、地方でまで相互接続を行うのは、コストあるいは運用管理上困難であった。
1.2 地域IXの必要性
現状のインターネットの問題点
高い通信コスト
一次ISP各社が各々個別に、東京までの長距離、大容量の通信回線を用意しているが、その通信の多くの部分が重複した内容となっている。また2次ISPはそのネットワークを各々別々に仕入れる、という高コスト構造がある。
- 不合理な渋滞
本来、分散、メッシュ構造が可能はずのインターネットが、東京の相互接続点に通信を集中させ、渋滞を引き起こしている。わざわざ一個所に通信を集中させて発生している渋滞は不合理である。
- 脆弱なネットワーク
本来、地域で閉じていれば良い通信も、東京を経由するのは不合理である。多くの回線、装置を経由する度に、その信頼性、安全性は当然落ちる。
ISPあるいはユーザ間で、自由なネットワークが構成できない。たとえば、ISP-Aに属する大学A1と学術ネットワークBに属する大学B1との間で、単独に遠隔授業のための専用帯域と経路を用意するのは容易なことではない。
対策
バイパスによる渋滞解消
なによりも明確な解消手段は、地域のネットワーク同士を結ぶバイパスを構築することである。地域の通信は地域で解決するのが望ましい。
- バックボーン共有で通信コスト削減
本来地域で閉じる通信まで東京を廻っているのは、コスト的にも大いなる無駄となっている。バイパスによりこの無駄が解消されるとともに、地域外との通信もバックボーンを共有することにより、重複した通信がまとまるため、コストダウンが期待できる。
- 地域内の通信路に対する決定権をもち、コミュニティを形成する。
地域独自のネットワークをもつことにより、地域に根差した各種の企画が行える。地域でコントロール可能なバックボーン
・ネットワークは、バーチャルな地域コミュニティの形成にも役立つ。
1.3 地域IXの役割
必要性で述べた以外にも、地域IXにはいろいろな役割、効果が期待できる。以下にその例を挙げる。
- 日本のインターネットトポロジーの再構成
東京一極集中は地方だけでなく、日本全体としても問題が大きいはずである。大手
ISPにとっても地域にIXができることは意義があるはずであるが、大手ISPを絡めた議論はまだ不十分な状態にある。
地域内技術者の意見交換の場
商用利用という意味においてインターネットの歴史が非常に浅いため、地域に技術者が非常に少ない。また技術者同士の交流もかなり限定的にしか行われていない。東海インターネットワーク協議会、jus東海等、古くからの交流の場はあるが、裾野は十分ひろがっておらず、特に地域ISPの技術者同士の交流の場は皆無に近かった。地域IXを拠り所にネットワーク技術者の交流の場が地域に生まれることは望ましいことことである。
地域型サービスの可能性
高速な地域通信網があれば、テレビ会議、地域番組(放送)、地域ディレクトリ、セキュリティ、認証サービスや行政情報提供など各種地域型のサービスに利用できる。
セキュリティの確保
通信経路が短くなることはセキュリティの確保にとっても重要なことである。
地域NIC
地域型ドメイン名(aichi.jp,gifu.jpなど)の登録・管理について、現在JPNICが行っている業務の移管について、地域として検討してみる必要はある。また、IPアドレスの集合をある程度、地域で管理できると、地域に閉じた経路制御を行ううえで都合が良い。
地域ISP同士の各種コラボレーション
地域ISP同士の協同事業が多々考えられる。
産学協同プロジェクト
商用ネットワークと学術ネットワークの通信に支障があると、あらゆる分野での産学協同プロジェクトに支障がでる。
逆に快適な産学間ネットワークは地域の産業・技術振興にとって大いに貢献するはずである。
相互バックアップ、機能分担
メール、DNS、ミラーサーバなど、地域ISP同士が協力してサービスの信頼性、パフォーマンスを向上させることも可能である。
地域電子ニュース配送
地域に閉じて電子ニュースを配送する試みも有意義である。
局舎、回線等NTT設備の共同利用
現在、通信回線の足回り(エンドユーザへの引き込み回線)は地域系NCCやCATVが健闘しているものの、ほぼNTTの独占状態に近い。地域の第二種通信事業者はNTT回線の安価な開放を期待し要求している。NTTの設備を共同で借り受けて利用するということも、今後可能性が考えられる。
地域情報サーチエンジン
地域から多くの情報発信がなされているはずであるが、その全貌は未知の状態である。地域として地域情報の検索システムを共同で模索するのも必要であろう。
1.4 地域IXの形態
地域IXはその分類要素が多々あり、多様な形態が考えられる。
トランジットをどうするか
地域内トラフィックのみを扱うのか、地域外への通信もあつかうのか
中継を行う通信階層をどうするか
- データリンク層
- ネットワーク層
- アプリケーション層
- 経路制御をどうするか
地域内の経路だけをあつかうのか、あるいは地域外をふくめるのか。
またその制御技術はどうするのか
BGP
RIP/OSPF
STATIC (and PROXY)
ISPのみ
大手ISPも参加
ASP (Application Service Provider) は?
行政は?
1.5 地域IXの問題点
地域
IXの実現は多様な問題を孕んでいることも研究会を通して認識できた。
- 地域内のトラフィックはそんなにないのではないか
- 大手
ISPには地域IXは不要ではないか
大手ISPにとって地域IXの運用は管理が増えて大変
経路情報の爆発の危険性
回線コストと運用コストのバランス
地域IXは経済的になりたつのか
地方自治体との協調、調整
経路制御などの技術的な課題、技術者の不足
非商用である学術系との接続
特に、コストと技術の問題はハードルが高い。実験的な地域
IXプロジェクトTKiXにおいても、BGPでの運用を前提としたため、参加可能な組織は3社にとどまった。一方BGPを使わないとなると今度は他の面(アドレスの管理等の事務的なオーバーヘッド)で運用コストが上がってしまうことが想定され、TKiXでは非BGPのISP収容は実現しなかった。
さらに一次キャリア(NTT,地域系
NCC等)による安価な接続サービスも、割り勘による地域IXの経済効果を薄めてしまった。
1.6 地域IXの今後の方向性
研究会での発表、議論を通して、今後の地域
IXの在り方が見えてきた。一部有志による実際の地域IX(TKiX)運営でもわかったことであるが、少なくとも現時点において、単なるIPルーティングのショートカットでは、上記問題点を抱えたうえでの費用対効果は薄く、商用ISPにとって経営的にその魅力に欠け、求心力がない。IXは多くのISPが集まってこそ意味のある仕掛けであり、ナショナルISPも含め、地域のISPの多くが一個所に集まるべき商業的な魅力が必要である。その魅力ある方向性としては、岩田会長の唱えるコンテントハブ構想が考えられる。
ネットワークハブからコンテントハブへ
地域
IXはIPルーティングよりも、むしろコンテントの交換、集約を目指すべきである。コンテントのあるところに回線があつまる、あるいは回線のあるところにコンテントが置かれるのが効率的な形態である。東京ではナショナルIXの近くにコンテントをおけばよいのであるが、地域ではそうもいかない。ローカルループが高速になればなるほど、コンテントハブの必要性が高まるのは必然といえる。
第二章
東海地域ハブ研究会
主旨
東海地域における情報流通の効率化の方策を検討すると共に、その一環として地域バックボーンとしてのインターネット相互接続ポイント(ハブ)の在り方を考える。
組織構成
事務局:財団法人中部産業活性化センター
会長:名古屋工業大学 岩田彰教授
顧問:南山大学 後藤邦夫教授、愛知県立大学 小栗宏次教授
財団法人中部産業活性化センター 専務理事 黒河内暎雄氏
オブザーバ:中部通産局、愛知県、岐阜県、三重県、愛知県中小企業団体中央会、名古屋大学
活動内容
会員間の情報交換
地域情報流通に関する意見交換
地域情報流通に関するプロジェクト推進
ハブの在り方に関する意見交換
地域IX運営の支援、実験参加
活動履歴
1997
年度活動履歴
第1回(97.7.16)
- 会設立の説明とディスカッション
- 地域IXの必要性
- 研究会の体制
IXの動向
2回(97.10.6)
(TKiX)運用開始について
〜 東海インターネット株式会社 SI部長 鈴木常彦氏
「商用IX メディア・エクスチェンジについて」
〜 中部テレコミュニケーション株式会社
「国内における地域IXの動向」
〜 富山インターネット協議会 中川郁夫氏
3回(98.2.23)
日本インターネットアクセス(株) 技術部長 別府正章氏
学術ネットワークの現状
〜 南山大学 経営学部管理学科 後藤邦夫 助教授
98年度予算について
〜 愛知県高度情報化推進室
1998
年度活動
第4回(98.6.23)
講師 東京大学 大型計算機センター 中山雅哉 助教授
5回(98.9.3)
HyBaプロジェクトの御紹介」
〜 ひまわりネットワーク株式会社
HyBaプロジェクト総合プロデューサ 久保江勝二氏
講演「コンテントハブを目指して」
〜 名古屋工業大学 岩田彰教授
6回(99.3.2)
Y-NIX(山梨県の地域ハブ)の紹介
〜 山梨県立女子短期大学 八代一浩 助教授
各県の来年度ネットワーク関連事業の紹介
98.12〜99.3)
1TBのキャッシュサーバ(イーエムシージャパン株式会社提供)を地域で共同運用し、トラフィックの軽減と地域情報流通の円滑化を図る。(コンテンツハプへの第一歩)
各地のIXの動向
NSPIXP
WIDE(代表 慶応大学村井純)による実験目的のIXであるが、実質的にこれまで日本のインターネットの中核を成してきた。現在でもNSPIXP2が400Mbpsを超えるトラフィックを交換している。
商用IX
〜)
ピュアにNational商用IXといえる唯一の存在。
MEX (1997〜)
JPIXとともに商用IXとしてスタート。点ではなく、面としてのIXを標榜し、国内に複数のアクセスポイントを設置している。
IX
岡山県 (1997〜)
県主導のプロジェクト(公共事業)
県内を1.5M〜155Mの自前回線でインフラ整備。県内の企業に無償で設備を貸与
大手ISPも参加。地域ISPはソースルーティングにより上位ISPを選択可能
2年間の実験期間を経て、1999年度より本格稼動
Y-NIX: 山梨県(1997/12〜)
県が初期費用を負担
産学共同プロジェクト
大手ISPも参加
TRIX: 東北(1996〜)
地域IXの草分け的存在
東北インターネット協議会
地域内のトラフィックを交換
RIXY: 山口県(1998〜)
山口大学と地域ISPの相互接続
RIPによる地域内経路交換
TOYAMA-IX: 富山県(1998〜)
地域内IX
大学、キャリア、商用ISPの共同研究
BGPによる地域内経路交換
- その他
郵政省のギガビットネットワークを利用した地域間相互接続実験がスタートする予定。詳細は次年度報告書に委ねる。
第四章
東海地域の地域IXの動き
TKiX
東海地域ハブ研究会と並行して、
1997年10月より有志ISPにより実験的に地域IXをスタートさせた。地域トラフィックの交換のみでは魅力が薄いとして、トランジットの共同購入を主眼においた。商用地域IXとしては全国初の試みであった。
TKiX
ネットワーク構成
名古屋中心部の日本テレコム熱田センターに2ラックのハウジングにより構成
ルータ1台を共同利用
各社とTKiXの間はRIPまたはSTATICルーティング。
BGPのピアリングは参加者およびODNがTKiXを跨いで、相互にマルチホップ・ピアリング
共用ニュースサーバによるニュースの再配送
研究会と共同で共用キャッシュサーバ実験
TKiX
参加要件
BGP4で接続可能なこと
分担金の支払
行政のネットワーク
東海3県で以下のネットワークの構築がすすめられ、何れも地域IXとしての機能が期待されている
。
三重マルチメディアネットワーク
岐阜スーパーハイウェイ
愛知県行政情報ネットワーク
東海地域ハブ研究会 平成10年度報告書
平成11年3月
制作発行 財団法人中部産業活性化センター
〒461-0008 名古屋市東区武平町5-1
名古屋栄ビルディング10F
制作協力 東海インターネット株式会社
〒460-0024 名古屋市中区正木四丁目10番15号
杉本ビル5F
担当 鈴木常彦
TEL 052-678-2080
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